ただ、そこにあることが価値。そんな店でありたい。
maruca coffeeは、今年、開業3年目を迎えた自家焙煎コーヒー豆屋さん。コーヒー豆の中でもグレードの高い「スペシャルティコーヒー」を専門に扱っています。思い起こせば3年前、ここ梅島に自家焙煎屋さん、それもスペシャルティーコーヒーの!と、この界隈でちょっとした噂になったものです。
焙煎機に魅せられて
最初は「日曜しか開いていないコーヒー屋さん」ということで有名でしたよね。
(maruca coffeeオーナー・加藤昌江さん)今年の12月で丸3年になるのですが、最初の一年ちょっとは日曜日しか開けられなかったんです。平日は焙煎機メーカーの「富士珈機」で働いていたから、開けられるのは週末だけで。昨年(2018年)からは富士珈機を卒業し、お店に専念することができるようになったので、営業日も増えました。
なぜ焙煎の道に?
今から18年前、当時の仕事に行き詰まり、憤りを感じていた時に、惹かれるように入った軽井沢の丸山珈琲で、焙煎機のかっこよさに魅せられたのがきっかけです。
お店の奥から聴こえるシャンシャンという、いい音。そしてコーヒーの薫り。なぜか「私の道はこれだ」と閃くものがあって、それから「コーヒーの焙煎がしたい」と思うようになりました。
ただ、一時の気まぐれかもしれない。現実逃避したいだけかもしれない。飽きっぽい性格だし、本当に焙煎の仕事ができるのか。十数年続けた仕事を全うする選択肢もある。本当にこれでいいのかと見極めるために、時間をかける必要があると思ったんです。
そこでまずはコーヒーのことを知ろうと、コーヒーの通信講座をはじめました。今思うとかなりゆるい内容だったけど(笑)、とっかかりにはよかったですよ。何を学べばいいのか、今の自分に何が必要かがわかったので。
そこでコーヒーのことを学ぶうちに「自分に必要なのは焙煎の実践だ」と気づいて、焙煎のセミナーに行くようになり、地元・梅島の富士珈機に出会ったんです。こんな近くにあるなんて、もう運命ですよね(笑)。
釜出しした瞬間の、ふわぁーっというコーヒーの香りを嗅ぐときが至福のとき(昌江さん)
スペシャルティコーヒーを当たり前の存在に
富士珈機で5年ほど焙煎セミナーのアシスタントを務めながら、物件を探し始めたんですよね。この場所を選んだのはなぜですか?
開業するなら自分の住む町でと考えていました。スペシャルティコーヒーってこの辺ではまだまだ認知度が低いし、こんなに美味しいコーヒーをもっと当たり前で、どこでも飲める、そんな身近な文化にしたいなと思って。
この物件には知人の紹介で来て、足を踏み入れた瞬間、自分の店のイメージがぱあって浮かんできて、その場で即決しました。自分が店をやるならっていうイメージノートを何冊も書き溜めていたんですが、そのノートに書いていたお店のイメージにぴったりだったんです。
何年も書き溜めているノート。その時々の夢だったり、アイデアだったりを整理したり可視化するためにノートをとる。「引っ張り出してみたら、けっこうありました」(昌江さん)
コーヒーで人と人をつなぐ
コーヒーのお店をやられているのだから、相当のコーヒー好きなのかなと思いきや、意外にも「普通です」と昌江さん。
コーヒー、好きですよ。だけどそれ以上にコーヒーのある風景が好きなんです。コーヒーで人と人をつなぐことが自分はやりたいんだと思います。
コーヒーって不思議なもので、その一杯で心が柔らかくなるっていうか、怒りながら飲む人ってあんまりいないですよね。贈り物にしても「美味しかったよ」って言われると、また贈りたくなったり、その一杯でお店のお客さん同士もあっという間に仲良しになったり。
コーヒーを通して人と人がつながる、そのお手伝いができる仕事っていいなと思います。
穏やかな光が差し込む店内。ここで注文したコーヒー豆を待つ間、あるいは好みのコーヒーを味わうちょっとした間にお客様同士の会話が弾むことも。
お店をやっていて印象的なエピソードはありますか?
「マルカあるある」って呼んでいるんですが、出会っちゃうんですね、お客様同士が。共通キーワードを持っていたりするんです。出身地が一緒だったり、昔のママ友が20年ぶりに会ったり、会いたいなと思っていた人に会えたりする。私自身、オープンして間もなく30年ぶりに会う友人が、偶然お店に入ってきたりして。お互い歳をとってすぐにわかりませんでしたけど。
また、これまではすれ違うだけだったご近所さんが、マルカで居合わせてコーヒー片手にお喋りするうちに、お店の外でも挨拶を交わす仲になられたりします。親子連れも、お年寄りも、です。こういう姿を見るとお店冥利に尽きます。だって、マルカがなかったら今も知らない同士ですよ。これってすごい店の力! お客様にとって、つい行きたくなる場所でありたいですね。
「夜このあたりを歩いていると、マルカさんから明かりが漏れていてホッとする」なんてお声もいただきます。これ、私も密かにおすすめ。夜マルカ、いいですよ。以前お客さんに言われてすごく心に残っている言葉があるんですが、「いい店というのは、ただそこにあるだけで街の価値になってるよね」って。マルカもそんな店でありたいと思ってます。
2019年6月に開催された「純喫茶フェスティバル」。コーヒー好きの集まるイベント。「ナナシノでもできたらいいな」(昌江さん)
これからやってみたいことは?
お客様から、「どんなコーヒーを選んだらいいのかわからない」「自分で淹れると美味しくない」なんて声をよく聞きます。ちょっとしたコツでコーヒーライフはぐんと楽しくなる! そのサポートをしていきたいですね。
最近、たくさんお声がけいただくようになった出張コーヒーセミナーや、店内でコーヒーミニ講座なども増やしていきたいです。だって、イメージノートにはアイデアがいっぱいですから。
それと、お客様に楽しんでいただくためにも、新しい商品、コーヒー豆、もっと美味しく焙煎するための勉強も続けていこうと思います。この夏にはご要望の多かった「水出しコーヒーパック」を商品化しました。
また、焙煎店を目指したときにイメージしたのが、「珈琲と緑と音楽と」。どれも私の中では切り離せないもの。いつか緑でいっぱいのジャングルのような店内で、ライブのできる焙煎店を作りたいです!
こけら落としのアーティストは、大好きな「THE GROOVERS」と勝手に決めてます(笑)。来てくれるかな〜。
こちらが新発売の「水出しコーヒー」用プロモーション動画。ナナシノ商店街メンバーのスズキミさんがアニメーションを担当、昌江さんは歌と演奏を担当。多才な2人の共演をご覧あれ。
私がこの記事用に焙煎機の写真を撮ろうとすると、この角度がいいですよ、ここから見る姿がかっこいいんですよ、この正面の飾り文字がいいんですよ、贅沢でしょ? 美味しいコーヒーを作ってくれる、いい仕事をする相棒です、と「焙煎機愛」が止まらない昌江さん。焙煎機が、焙煎が、本当に好きなことが伝わってきました。
この先も、この焙煎機から生み出されるmarucaさんのコーヒーが、ナナシノの街の人と人をつないでいくのでしょうね。
(文責:なおこ)
▪️maruca coffee(自家焙煎珈琲豆)
住所:足立区梅島1-23-3
営業時間:月〜水 13:00〜18:00/日曜 11:00〜18:30(定休日:木〜土・祝)
*朝マルカあり。詳しくはFacebookページまで。
https://www.facebook.com/marucacoffee/
*コーヒーは店内でも飲めます。豆はお好きなものをチョイスできるので、気になるお豆があったらまずは試してみては。テイクアウト可。